1 : Alice
2025-09-15 16:28:09 UID:ZTg4NTg2i(1)

朝の始まりを告げるはずの鐘は、まだ夜の底に沈んだまま微睡んでおり、目を覚ました鳥たちは羽を動かさずに影だけを飛ばしていた。机の上に散らばった文字は文章になろうとせず、互いに隣り合うことを拒み続け、やがて一つひとつの文字が自分自身の意味を疑いはじめる。その疑いは紙の端を焦がし、燃えた灰は床に落ちる前に小さな湖へと姿を変えるが、その湖には水がなく、透明な深さだけが沈黙の形で存在していた。そこに映るのは誰の顔でもなく、ただ時間が歪んだ影だけであり、その影がこちらを見つめ返す瞬間、窓の外の風景は見慣れた街並みであるはずなのに、道が天井に貼り付けられ、建物が逆さに歩き回っていることに気づく。

人々はその逆さの街を疑問に思わず、むしろ順序のない会話を交わしながら笑っており、笑い声は地面ではなく空から降ってくる。ひとつの笑い声が頬に触れると、それは冷たさではなく重みを持ち、肩に積もっていく雪のように感覚を埋めていく。言葉を探そうとしても口から出てくるのは音ではなく色であり、赤はすぐに床に溶け、青は宙に浮かび、黄は耳の奥でかすかに響く。誰かがその色を捕まえようと伸ばした手は、掴む前に手自身を忘れ、残ったのは「掴もうとしていた」という記憶だけだった。

やがて記憶そのものが形を持ちはじめ、部屋の隅で小さな人影となって立ち上がる。だがその人影は顔も名前もなく、ただこちらを凝視し続け、目を逸らそうとした瞬間に世界全体が瞬きをする。瞬きの間に景色は全く異なるものへとすり替わり、今度は砂漠のように乾いた空気の中で、砂粒が一つひとつ数字の形をして風に舞い上がっている。その数字は数えることができず、ただ無限に増え続け、空を覆い尽くした時、空そのものが数字を読み上げる声を放った。その声は意味を持たないのに、確かに理解してしまったような錯覚を与え、理解したと思った瞬間に理解していた内容を完全に失わせる。

結局のところ、何が始まりで何が終わりなのか分からないまま、ただページがめくられ続け、めくられたページに文字がないことだけが確かな事実として残り、その事実さえも次の瞬間には消え去っていた。

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